商業印刷という分野

2011.07.12

すくなくとも印刷屋としては、いくつか選択の道はあったと思うのだ。戦後、急速に商業印刷という分野が発展していった。毎日目にする新聞のカラーちらしや通信販売のカタログの類である。この分野の延びは著しく、近年、急速に成長した印刷会社というのは例外なく、この商業印刷を主力においている。親父もN印刷の業態をこちらにふることも不可能ではなかったはずだ。「なんで、カラー印刷なんかの伸びている分野へと進出せえへんかったん。それの方が絶対もうかったで」と、聞くと、親父はそれを軽くいなした。「よう考えてみいや。カラーの商業印刷へと進出して、伸びた会社だけが今残っているわけや。進出してみたものの、失敗してつぶれた会社は今ないわけや。結局、伸びた会社だけが残るから、商業印刷やっている会社がみんな成功しているように見える。わかるか、その裏にはつぶれた会社が山をなしている」よくも悪くも、京都の守りの経営を体現した理屈だった。それでも、親父はまったく改革をしなかったわけではない。職人芸のみの世界だった活字の世界に科学的な行程管理の概念を持ち込み、工程を改善しようと努力している。活版産業の近代化に、熱心に取り組んでいた。一番力をいれたのがモノタイプであるのは前章にも書いたとおりである。しかし、それはあくまでも活字を中心とした近代化であり、「活版こそが印刷の王道」という態度を終生変えることがなかった。理由はいろいろあるだろう。N印刷の得意先が変化よりも安定を求めるお役所が多かったのも大きい理由だ。それに大学からの仕事も多く、論文集などはとくにさまざまな文字を必要とした。活版が強く望まれたのである。文字を表現するのには、活字がもっとも優れた技法だったし、親父はそう信じていた。それが活版にこだわった最大の理由だと思う。

[参考]
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http://www.gekiyasu-chirashi.com/